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【ネタバレあり】舞台「ふるあめりかに袖はぬらさじ」レポ

どうも。

 

新橋演舞場で上演されている、大竹しのぶさん主演、薮くん出演舞台「ふるあめりかに袖はぬらさじ」を観てきた。

 

本作品は1972年の初演以降6回目の上演。ジャニーズタレントだと過去に浜中文一くんが薮くんと同じ役を演じたことがある。

 

薮くんは近年はミュージカルへの出演は複数あったもののストレートプレイの出演はなく、熟練のキャストの中で新たな一面を見せてくれるのでは?と期待していた。

 

公式サイト記載のあらすじは以下の通り。と言いつつ、観にいったからわかるが、物語の2幕の3分の2くらい(実質ほぼネタバレ)まで内容が書かれてしまっているため、今後観劇予定でまっさらな状態で楽しみたい人は以降の閲覧は自己責任で(また今後再演する可能性もあるから尚更)。

 

幕末、開港前の横浜。遊廓「岩亀楼」の花魁・亀遊(美村里江さん)は店お抱えの通訳・藤吉(薮くん)と恋仲でしたが、アメリカから来た商人のイルウス(前川泰之さん)に見初められ身請が決まってしまいます。
藤吉との恋が成就しないことを嘆いた亀遊は、自ら命を絶つのでした。
亀遊の幼馴染であった芸者・お園(大竹さん)はその死を深く悲しみますが、ある日目にした瓦版に驚きます。
そこでは「異人に身体を許すならば自らの命を絶つことを選んだ“ 攘夷女郎” 」として、亀遊の死の真相が捻じ曲げられていたのです。
瓦版は大変な評判を呼び、岩亀楼には連日攘夷派の武士たちが訪れることとなり、お園は真実を知りながらも、創り上げられた亀遊の最期を歌って語るようになります。
攘夷論が吹き荒れる世で、亀遊の死を巡りその渦中に巻き込まれるお園。
重ねられる嘘の先に待つものとは―

 

亀遊が命を絶つまでが1幕。そこからお園が亀遊の偽りの生涯の語り部になるのが2幕。

さらに話を続ける。攘夷派の客が増えてきているタイミングも重なり、通訳をしている藤吉は医学の勉強をするために岩亀楼を辞めてアメリカに旅立つ。攘夷派の客達にお園が酔った勢いで語り続けた作り話についに時系列の矛盾が生じ、嘘がバレ、攘夷派達に殺されかける。しかし、開港論が高まっている時世に攘夷派が殺しをしようものなら更に自分たちに不利になること、お園が泥酔していて話が支離滅裂になっていることを見て、「俺がこの話を買う」と攘夷派のトップ?(うろ覚え)と思しき人が金をお園に出し、その場を丸く収める。九死に一生を得たお園は降り頻る雨の中袖を濡らしながら、独り寂しく命を絶った亀遊に思いを馳せて物語は終わる。

 

この作品で特に良いと思ったのは、登場人物の魅力とストーリー展開の説得力の強さ。亀遊が藤吉を好きだったのも、イルウスが亀遊に一目ぼれするのも納得できるんだよね。それだけ藤吉と亀遊のキャラクターが魅力的だから。藤吉は自分の将来を考えつつ、亀遊の病気を治すために一生懸命働きかける誠実な青年だし、亀遊は他の芸者たちとは一線を画す奥ゆかしい美しさを持っていた。意外と登場人物のキャラクターに魅力を感じなくて展開に納得が出来ない作品って少なくないんだよね。あと、攘夷派から店を守るために店主とお園が嘘をつかなければならなかったのも、嘘がバレたお園を攘夷派が殺さなかったのも、時代背景と共に納得が出来た。ここまでストーリーに説得力を持った作品はなかなかないから、そりゃ6回も上演されるわな、と思った。

 

ただ、薮担の視点で言うと、近年の薮くんはいい意味で騒がしい海外原作ミュージカルの主演が目立っていたため、ストレートプレイ時代劇の助演、となると少し物足りなさを感じるかもしれない(実際、終演後の周りの会話を聞いていると勝手の違いを感じていた薮担は多そうだった)。先ずストレートプレイだから歌うシーンは殆ど無い(歌う場面として歌うことはあるけど、セリフを歌にのせて話すことはない)。そして時代劇の雰囲気も海外ミュージカルと大きく異なる。そして今回は主演ではなく助演、藤吉は2幕の前半でアメリカに旅立つため退場してしまう(「オセロー」のイアーゴーとかはだいぶ例外)。よって、これまでの作品と比べると、もしかしたら現場としては物足りない可能性がある。ただし、これは作品が悪いというよりは私がこれまで見て来たもののジャンルの問題だと思う。

 

薮くんの演技は、それこそこれまで海外ミュージカルが多かったから、時代劇の演技の勝手がまだ掴みきれていないんだろうなと言う印象。若干セリフの言い回しが海外ミュージカルっぽくなってた時もあった気がする。「マラチェックさん」とか言い出すんじゃないかと思ったもん(笑) 薮くんは吸収力が凄くあるから、ここ1年半で培った海外ミュージカルのスキルは確実に身についている一方で、180度傾向が変わった今回の作品は、また0からの挑戦だったんだろうなと。千穐楽に近づくにつれて進化が見えると思うから、今後観に行ける人がうらやましい。

 

演技が特に素晴らしかったのは、先ず主演の大竹しのぶさん。あっぱれの座長だった。おしゃべりでパワフルなお園が本当に江戸時代からタイムスリップしてきたような、存在感の凄い演技だった。

もう一人は亀遊を演じていた美村里江さん。本当に亀遊が美しくて、でも病気持ちでか弱くなってしまって、でも奥底に芯の強さがあって。そんな亀遊を見事に演じ切っていた。

 

上演はまだまだ始まったばかり。キャスト・スタッフ共に全員健康で千穐楽まで駆け抜けられますように。

 

では。